つまらない医師のプライド
今回の考察は、もっと時間をかけて掘り下げた後に記載しようと思っていま
したが、タイムリーな話題があったので前倒ししました。それは麻生首相の
この発言です…「医者には社会的常識が欠落した者が多い」
私があえて「失言」ではなく「発言」としたのは、若干当たらずとも遠からず
と感じたからです。私自身が医師免許があるにも関わらず、プロマジシャン
の道を選択したことを非常識と思われたら返す言葉もございませんが…。
どんな職業でも非常識な人はいるし、その割合の統計などありません。
しかし医師、弁護士、裁判官、教師、警察官等が破廉恥な事件を起こした際、
一般人よりも大きく取り上げられる傾向があるのは、より高い倫理観を求めら
れているからなのでしょう。最近は弁護士がタレント化していますが、医師の
場合は命を扱う仕事という性格上、一部の女医を除けば、バラエティー番組で
不謹慎な発言を許容してくれる社会状況ではありません。
茶髪にピアスの若者が救急車で運ばれたとしましょう。そこに茶髪にピアスの
医師とロマンスグレーでネクタイ姿の医師がいたとしたら、どちらに診てもら
いたいでしょうか?まず後者を選ぶでしょう。人を見かけで判断するなと言う
チャラ男でも、いざとなったらチャラチャラした医師に自分の命を預けるのは
嫌でしょう。人間というのは身勝手なものです。
話がややそれたので本筋に戻します。首相の発言を当たらずとも遠からずと
感じたのは、今さらながら医師のプライドが高過ぎるというのを、マジック
活動を通して多く見て来たからです。長年高級クラブで演じた経験から、タチ
の悪い絡み方をするのは医師が多かった気がします。そのプライドが騙される
ことを許さないのです。
ここにプライドの高さを示す3つのエピソードを紹介します。
[エピソード1]
プロデビュー間もない頃の私は、ゴルフ場を併設したリゾートホテルのラウ
ンジでレギュラー出演していました。ある日サロンマジックを演じていると、
面識のある某大学医学部の助教授一行が来店しました。(典型的な製薬会社
の接待ゴルフのようです。)頃合いを見て、テーブルマジックを演じるために
その席におじゃました時のことです。私の「お久しぶりです。」の挨拶を遮る
ように助教授が言いました。「君は最近学会で見かけないと思ったら、こんな
所で何くだらない事やってんだ!」この突然の説教でラウンジ全体の空気も
悪くなり、他の客も迷惑な様子なのですが、誰も止めることが出来ません。
「白い巨塔」といわれる縦社会で、よその大学とはいえ、そこのナンバー2に
反論するのはかなりの勇気が必要でしたが、遂に言ってしまいました。
「あんたね、他人の金でゴルフや飲み食いして、何偉そうな事言ってんだ!」
…意外とスカッとするものです。
[エピソード2]
私が大学病院を辞めてプロ転向した頃、友人と有名なマジックの店「西岡」
を訪れた時の出来事です。そこには先客でマジックを趣味にしている一人
の若い医師が飲んでいました。彼は私よりも年下で、大学は違えどマジック
が大好きで、「○○さん(私の本名)、教えてください」と学生時代は何度も
遊びに来たものでした。お互い医師になってからは会うのは初めてだったの
ですが、すっかりプライドが高くなったのか「○○君、久しぶりだねえ。」と
絡んで来たのです。当時彼は研修医で大学の中では最下っ端、さらに激務で
ストレスが溜まっているのは理解できたし、思い切りよく好きな世界に飛び込
んだ私に対して多少のジェラシーもあったのかもしれませんが、呼び方がいつ
のまにか「さん」から「君」に変わり、「医師免許があるのにプロ活動をする
なんて、医の倫理に反する」とまでの賜ったのです。はぁ? どういう理屈な
のでしょう。赤い顔して酒を飲み、煙草をプカプカ吸いながら、若い研修医が
医の倫理を語るとは…その後も延々と絡み続け、私の友人とお店のスタッフ
から一喝されて、あえなく退散して行きましたが、このような精神構造の人物
が、これまた精神科医になり、親から譲ってもらった大病院の院長として君臨
しているそうです。めでたしめでたし…この医師が学生の頃、火のマジックの
練習中に火事が起きて裁判にまでなりました。(実は私…傍聴しました。)
[エピソード3]
福岡にはドクターマジックと称するアマチュアマジシャンがいました。
(あえて過去形) 彼はあるマジックコンテストに出演、賞は獲れませんで
した。しかし、全員に渡される参加賞を優勝と偽ってマスコミに売り込み、
リハビリにマジックをとり入れて成果を上げていると発表したために、当時
は取材し易い美談として、何度もテレビ等に取り上げられていたものです。
しかし、マジッククラブが招聘したプロの演技を隠し撮りしたり等、その問題
行動と虚言癖で、クラブから除名処分になる始末。さらに公私混同の行いで
勤めていた病院にも居づらくなり開業したものの、クリニック内にマジック用
ステージを作るなど医師としては本末転倒の経営で閉院、北九州市に移って
再起を期したようですが、今年の4月、785万円もの不正診療報酬請求の
詐欺行為が発覚したため、遂に5年間の保険医登録抹消処分となりました。
この転落人生の最初のきっかけは、コンテスト落選という現実を受け入れられ
なかったプライドにあったと思えてなりません。嘘の連鎖の始まりでした。
これらの医師は極端な例です。
ところで、アマチュアマジシャンを職業別に分類すれば、医師はかなりの割合
を占めるのではないでしょうか。では、なぜマジックを趣味とする医師が多い
のか。(ここからはあくまで私の持論です。)
やはり手が器用だから?…いやいやそんなの理由にもなりません。
経済的にマジックの道具を買うのが苦にならないから?…少し当たってる。
正解は、「プライドを満たしてくれる趣味」だからです。
医師になってからマジックを始めた人の心の変遷の推理です。
マジックを見る→悔しい・プライドが傷付く(でも少し憧れる)→マジック
を研究してみる(医師になるだけあって、勉強癖と探究心はある)→興味が
湧いて道具を買う(経済的に余裕がある)→ハマる→演じる→ウケる(プラ
イドが満たされる)→さらにハマる…このような変遷は医師に限ってはいま
せんが、医師の場合の大きな問題は、何処へ行っても「先生、先生」と呼ば
れ、おだてられることです。医師を取り巻く環境は、看護師さん、患者さん、
薬や医療機器を買ってもらっている業者さん、さらには行きつけのクラブの
ホステス…常に「先生」とヨイショする人達にマジックを見せて、もしタネが
見えたとしても「タネが見えたぞ!へたくそ!」と絡まれるでしょうか?
下手でもおだてられるから、個々のマジックの完成度は低いまま、レパート
リーだけが増えていき、それをまた自慢げに見せる輪廻地獄。
あるホステスさんが言っていました。「お客さんの話に合わせて、笑ったり
同情したりするのは容易いけど、もろタネが解る手品で驚くふりをするのは
マジで辛い。驚くとまたやるし、あっ解ったと言うと怒りだすし…」
アマチュアマジッククラブに所属している医師は、なぜかそこの世話人的な
人が多いと感じますが、趣味の集まりであるにも関わらず、周囲が「先生」
と持ち上げてしまっているのが一つの理由なのではないでしょうか。
(もちろん、人格的にも優れて造詣が深いという理由もあるでしょう。)
しかし、プロの演技をしたり顔で批評したり、実力も無いのに大物気取りの
人がいるのも事実。
こういう医師のプライドをくすぐって利用しているプロがいるのも問題です。
プロまでもが「先生」とおだてて、道具を買ってもらったり、講習会の後に
飲みに連れて行ってもらったり。
「ごっつぁん体質」のプロと「タニマチ気取り」の医師のコラボレーション。
プロもマジッククラブの会員さんも、マジックという趣味だけを通して付き
合う以上、もういいかげんに医師を「先生」と呼ぶのは止めませんか?
みんなと同じ「○○さん」でいいじゃありませんか。
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