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2008年12月

会話を楽しむ

年末はイリュージョンをメインにしたショーが続き、ちょっとした引っ越し
屋並みに大道具を運んだせいか、久しぶりに筋肉痛がひどく、毎晩
マッサージチェアーで寛いでいます。(倉庫の奥にしまって、めったに
出番のないイリュージョンよりは、よっぽど元がとれています。)

その昔キャバレー全盛時代、一晩に3〜4回15分程度の出演が普通
だったマジシャンは、BGMに乗って演じるアクトやイリュージョンを中心
にレパートリーを増やしていました。現在のパーティーやイベントでは
30分程度の出演を依頼されるのが一般的ではないでしょうか。
(私の場合は45分の構成を最も多く求められます。)
営業プロの皆さんであれば、持ち時間が長くなればなるほど必然的に
トークマジックの割合を多くせざる得ないと感じるのは異論の無い所
でしょう。しかし決してトークマジックは一朝一夕で上達するものでは
ありません。現在でこそ私は全体の3分の2をトークマジックで構成し
ていますが、若手の頃は観客をコントロールするのは大変で、できる
ものならずっとBGMに乗って演じたいくらいでした。(今でも騒がしい
立食パーティーで、観客の注意をトークで引っ張るのは大変です。)

私は時々自分のショーの映像をMr.マリック氏に送って見てもらってい
ます。自分では全く気付かなかった箇所を指摘してもらえるからです。
(マジシャンとしては、最高の人間ドックで無料で検査してもらってる
ようなものですから、有り難い事です。)
先日マリック氏から次のような指摘を受けました。
「あなたのトークは確かにウケてるかも知れないけど、観客との会話
は成立していないよ。自分に関心を持ってほしくて一方的に話すの
ではなく、あなたが客に関心を持って話しかけなきゃ。用意した話を
流暢に話せたからといって、それがトークが上手い事にはならない。」

確かに自分でも思い上がっていた心当たりが多々あります。例えば
ステージに招待した客の名前を尋ねるのを省いたり…等々。
マジックを演じるだけでもストレスなのに、主催の企業名や新郎新婦
の名前を覚えるのは意外と大変です。言い間違える恐れがさらに大
きなストレスとなって被さってきます。客に何かを質問して、意外な
受け答えをされると、気の利いたセリフを返せるかも不安です。
ですから、予定調和で無難に進行するように、自分の用意した話を
講演会のように一方的に語ってしまう傾向にあったのです。

そういえばクロースアップでも、会話をしているようで実は一方的に
話まくり、全く客に口を挟ませない演技をするマジシャンはよくいます。
例えば「このコインの上にカードを置いて見えなくすると、すでに
コインは無いんじゃないかと思いますよねぇ。でもほらまだあるんです。
さらに…」思いますよねぇと聞いといて、客には返事させる気は無いの
です。これも自分が順調に走っている線路の上に石ころを置かれるのを
恐れるあまり、会話を避けているのです。

マリック氏の説く、トークマジックで必要な3つの約束事です。
1. まず、しっかりした挨拶
2. 観客に対して関心を持ち、質問をする。
 (どこから来られたのですか?マジックはお好きなんですか?程度
  で十分だそうです。)
3. そして社交辞令

会話を楽しめる余裕を持つ事が来年の一つの課題になりました。

今回の考察は「会話」がキーワードでしたので、ここで皆さんの話の
ネタになる面白い「男と女の会話」をご紹介します。
しっかりと読んでみて下さい。

男 : やったー!待ちに待った日がようやく来たー!

女 : 後悔しそう。

男 : えー!今さら勘弁してよ!

女 : 私のこと愛してる?

男 : 当然だよ!

女 : 裏切ったりする?

男 : どうして君はいつもそんなこと言うのかな?

女 : キスして。

男 : もちろん、一度だけでなく何度でも。

女 : 私に暴力を振るう?

男 : そんなのありえないね!

女 : あなたを信じていいの?

読み終わりましたか?
なんてことはない若いカップルの会話ですが、今度は下から読んで
みて下さい。なんと破局直前のカップルの会話に早変わりします。
ジャンジャン。

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見たことないもの?

仕事を頂くエージェント(芸能プロダクション)から、年に1、2度ですが
次の様なリクエストをされる事があります。
「今回はある企業のパーティーなんですが、ここの社長がマジックが
好きで、毎年マジシャンを呼んでいるんです。色々なマジックを見慣れ
ているので、見たことないものをやってほしいんですよね。」
冷静に考えると、このようなリクエストをされるのはマジシャンだけでは
ないでしょうか?お笑い芸人が堂々と他人のネタをやる事はないだろうし、
ジャグラーなら扱う道具がある程度重複するのは仕方ないし。
(マジシャンの場合は、人が代わってもどうせ出し物はほぼ一緒なのだと
見透かされているようなもの。)

デビュー間もない頃にこのようなリクエストをされると、それは焦って、
過去に誰がどんなマジックをやったのかを必死で聞き出していたものです。
現在はアクトであれ、トークであれ、イリュージョンであれ、自分なりに
差別化を図ってきたので焦る事はなくなりましたが…。
しかし、同じ素材や道具であっても、演じるマジシャンによって全く別物
に見える事も多いので、リクエストの「見たことないもの」の意味が「物」
なのか「演技」なのかは悩ましいところです。

差別化を図るには様々な考え方があります。
・誰にもマネ出来ないテクニックを身に付ける。
・ポピュラーな道具でも、独自の使い方をする。
・他人には似合わない独自のトークをする。
・誰よりも早く新製品を手に入れる。
・かなりの勇気が必要なほどの高いイリュージョンを買う。
・自分以外には秘密が解らない魔法を演じる。
等々。
そもそも有名になってしまえば、その事自体が大きな差別化です。

芸人ならば、他人を出し抜きたいと考えるのが普通だと思うのですが、
どうもマジシャンは横並びで安心感を得るのが好きなようです。
あるエージェントが嘆いていました。「若手マジシャンがデビューしたと
思ったら、みんなスケッチブックからボーリングの玉を出し、テーブルを
浮かし、紙コップの水を消し、雪と言い張って紙吹雪を散らかして陶酔
してるんだよなあ…」

20年前、名古屋キャッスルホテルで見かけたMr.マリック氏のポスター
のキャッチコピーが忘れられません。
「こんな不思議な男、見たことない!」…カッコ良過ぎました。

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クリスマスマジックショー in 山口

ホテル河長 クリスマスパーティー

     「Dr.ZUMAマジックショー」

2008年12月21日(日)  詳しくはここをクリック


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つまらない医師のプライド

今回の考察は、もっと時間をかけて掘り下げた後に記載しようと思っていま
したが、タイムリーな話題があったので前倒ししました。それは麻生首相の
この発言です…「医者には社会的常識が欠落した者が多い」
私があえて「失言」ではなく「発言」としたのは、若干当たらずとも遠からず
と感じたからです。私自身が医師免許があるにも関わらず、プロマジシャン
の道を選択したことを非常識と思われたら返す言葉もございませんが…。
どんな職業でも非常識な人はいるし、その割合の統計などありません。
しかし医師、弁護士、裁判官、教師、警察官等が破廉恥な事件を起こした際、
一般人よりも大きく取り上げられる傾向があるのは、より高い倫理観を求めら
れているからなのでしょう。最近は弁護士がタレント化していますが、医師の
場合は命を扱う仕事という性格上、一部の女医を除けば、バラエティー番組で
不謹慎な発言を許容してくれる社会状況ではありません。

茶髪にピアスの若者が救急車で運ばれたとしましょう。そこに茶髪にピアスの
医師とロマンスグレーでネクタイ姿の医師がいたとしたら、どちらに診てもら
いたいでしょうか?まず後者を選ぶでしょう。人を見かけで判断するなと言う
チャラ男でも、いざとなったらチャラチャラした医師に自分の命を預けるのは
嫌でしょう。人間というのは身勝手なものです。

話がややそれたので本筋に戻します。首相の発言を当たらずとも遠からずと
感じたのは、今さらながら医師のプライドが高過ぎるというのを、マジック
活動を通して多く見て来たからです。長年高級クラブで演じた経験から、タチ
の悪い絡み方をするのは医師が多かった気がします。そのプライドが騙される
ことを許さないのです。

ここにプライドの高さを示す3つのエピソードを紹介します。
[エピソード1]
プロデビュー間もない頃の私は、ゴルフ場を併設したリゾートホテルのラウ
ンジでレギュラー出演していました。ある日サロンマジックを演じていると、
面識のある某大学医学部の助教授一行が来店しました。(典型的な製薬会社
の接待ゴルフのようです。)頃合いを見て、テーブルマジックを演じるために
その席におじゃました時のことです。私の「お久しぶりです。」の挨拶を遮る
ように助教授が言いました。「君は最近学会で見かけないと思ったら、こんな
所で何くだらない事やってんだ!」この突然の説教でラウンジ全体の空気も
悪くなり、他の客も迷惑な様子なのですが、誰も止めることが出来ません。
「白い巨塔」といわれる縦社会で、よその大学とはいえ、そこのナンバー2に
反論するのはかなりの勇気が必要でしたが、遂に言ってしまいました。
「あんたね、他人の金でゴルフや飲み食いして、何偉そうな事言ってんだ!」
…意外とスカッとするものです。

[エピソード2]
私が大学病院を辞めてプロ転向した頃、友人と有名なマジックの店「西岡」
を訪れた時の出来事です。そこには先客でマジックを趣味にしている一人
の若い医師が飲んでいました。彼は私よりも年下で、大学は違えどマジック
が大好きで、「○○さん(私の本名)、教えてください」と学生時代は何度も
遊びに来たものでした。お互い医師になってからは会うのは初めてだったの
ですが、すっかりプライドが高くなったのか「○○君、久しぶりだねえ。」と
絡んで来たのです。当時彼は研修医で大学の中では最下っ端、さらに激務で
ストレスが溜まっているのは理解できたし、思い切りよく好きな世界に飛び込
んだ私に対して多少のジェラシーもあったのかもしれませんが、呼び方がいつ
のまにか「さん」から「君」に変わり、「医師免許があるのにプロ活動をする
なんて、医の倫理に反する」とまでの賜ったのです。はぁ? どういう理屈な
のでしょう。赤い顔して酒を飲み、煙草をプカプカ吸いながら、若い研修医が
医の倫理を語るとは…その後も延々と絡み続け、私の友人とお店のスタッフ
から一喝されて、あえなく退散して行きましたが、このような精神構造の人物
が、これまた精神科医になり、親から譲ってもらった大病院の院長として君臨
しているそうです。めでたしめでたし…この医師が学生の頃、火のマジックの
練習中に火事が起きて裁判にまでなりました。(実は私…傍聴しました。)

[エピソード3]
福岡にはドクターマジックと称するアマチュアマジシャンがいました。
(あえて過去形) 彼はあるマジックコンテストに出演、賞は獲れませんで
した。しかし、全員に渡される参加賞を優勝と偽ってマスコミに売り込み、
リハビリにマジックをとり入れて成果を上げていると発表したために、当時
は取材し易い美談として、何度もテレビ等に取り上げられていたものです。
しかし、マジッククラブが招聘したプロの演技を隠し撮りしたり等、その問題
行動と虚言癖で、クラブから除名処分になる始末。さらに公私混同の行いで
勤めていた病院にも居づらくなり開業したものの、クリニック内にマジック用
ステージを作るなど医師としては本末転倒の経営で閉院、北九州市に移って
再起を期したようですが、今年の4月、785万円もの不正診療報酬請求の
詐欺行為が発覚したため、遂に5年間の保険医登録抹消処分となりました。
この転落人生の最初のきっかけは、コンテスト落選という現実を受け入れられ
なかったプライドにあったと思えてなりません。嘘の連鎖の始まりでした。
(現在の彼の行方は知りませんが、最近名古屋に出没したとの情報有り。)

これらの医師は極端な例です。
ところで、アマチュアマジシャンを職業別に分類すれば、医師はかなりの割合
を占めるのではないでしょうか。では、なぜマジックを趣味とする医師が多い
のか。(ここからはあくまで私の持論です。)
やはり手が器用だから?…いやいやそんなの理由にもなりません。
経済的にマジックの道具を買うのが苦にならないから?…少し当たってる。
正解は、「プライドを満たしてくれる趣味」だからです。

医師になってからマジックを始めた人の心の変遷の推理です。
マジックを見る→悔しい・プライドが傷付く(でも少し憧れる)→マジック
を研究してみる(医師になるだけあって、勉強癖と探究心はある)→興味が
湧いて道具を買う(経済的に余裕がある)→ハマる→演じる→ウケる(プラ
イドが満たされる)→さらにハマる…このような変遷は医師に限ってはいま
せんが、医師の場合の大きな問題は、何処へいっても「先生、先生」と呼ば
れ、おだてられることです。医師を取り巻く環境は、看護師さん、患者さん、
薬や医療機器を買ってもらっている業者さん、さらにはいきつけのクラブの
ホステス…常に「先生」とヨイショする人達にマジックを見せて、もしタネが
見えたとしても「タネが見えたぞ!へたくそ!」と絡まれるでしょうか?
下手でもおだてられるから、個々のマジックの完成度は低いまま、レパート
リーだけが増えていき、それをまた自慢げに見せる輪廻地獄。
あるホステスさんが言っていました。「お客さんの話に合わせて、笑ったり
同情したりするのは容易いけど、もろタネが解る手品で驚くふりをするのは
マジで辛い。驚くとまたやるし、あっ解ったと言うと怒りだすし…」

アマチュアマジッククラブに所属している医師は、なぜかそこの世話人的な
人が多いと感じますが、趣味の集まりであるにも関わらず、周囲が「先生」
と持ち上げてしまっているのが一つの理由なのではないでしょうか。
(もちろん、人格的にも優れて造詣が深いという理由もあるでしょう。)
しかし、プロの演技をしたり顔で批評したり、実力も無いのに大物気取りの
人がいるのも事実。(実際のマジックの腕はボロボロの場合が多い)
こういう人達のプライドをくすぐって利用しているプロがいるのも問題です。
プロまでもが「先生」とおだてて、道具を買ってもらったり、講習会の後に
飲みに連れて行ってもらったり。
「ごっつぁん体質」のプロと「タニマチ気取り」の医師のコラボレーション。

プロもマジッククラブの会員さんも、マジックという趣味だけを通して付き
合う以上、もういいかげんに医師を「先生」と呼ぶのは止めませんか?
みんなと同じ「○○さん」でいいじゃありませんか。

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マジックとリアリティ

そもそもマジック自体が虚構の世界なのだからリアリティが必要なのか
という疑問がありますが…必要だと思います。では、映画も虚構だからと
いう理由で下手な演技や出来の悪いCGを見せつけられると、感情移入も
出来ません。

24歳の夏、私はアメリカ西海岸で開催されたマジックコンベンションのコン
テストにチャレンジしました。その時のアクトは、鳩・火・フラワー(毛花)
で構成し、調教した鳩をわざわざ日本から持ち込んでの演技で、そこそこの
手応えを感じたのですが…入賞出来ませんでした。
落ち込んでいる私にMr.マリック氏が声をかけてくれました。
その時のアドバイスを覚えている限り忠実に記載します。
「入賞出来なかった大きな原因が一つある。あなたが使った素材を見ると
鳩と火は自然物(人間が創造した物ではない)、逆に毛花は人工物でしょ、
鳩と火であれだけシリアスに構成されたアクトの中に、突然毛花が出て来た
ために、一気にシリアスさとリアリティが無くなったんだよ。」…ガーン!
実写の映画の中に突然アニメのキャラクターが登場する作品がありますが、
あれで一気にリアリティが無くなるのと似た感覚です。

一般的に、マジシャンが使用する「花」は本物ではなく、着色した鳥の羽を
束ねたいわゆる「毛花」です。…なぜでしょう?それは本物の花は寿命も短く
デリケートで扱いや隠したりするのが大変だからという理由に他なりません。
だから扱い易い毛花を使うのです。
毛花に限らず、本物が存在するのにあえてニセ物を使う場合は、マジシャン
サイドの都合だと思ってまず間違いありません。
(例外があります。シークフリード&ロイが使用したメカの怪獣や、島田氏の
ドラゴンイリュージョンは、この世にその本物が存在しないという現実から考
えれば、都合でニセ物を使っているという断定は出来ません。また賛否両論
ありましたが、ジャック武田氏がぬいぐるみの中に猿や犬を入れて、この世
に存在しないピンクパンサーや恐竜、果ては河童までも出現させた演技は、
個人的には最高にウケました。)

しかし私は今でも毛花のマジックは大好きです。毛花が醸し出す良い意味
でのベタなマジック臭さは何とも言えない魅力とノスタルジーを感じます。
ですから一切のリアリティーを排除して、ひたすら毛花を出し続けるサムソン
や故ブラックストーンJrの演技には感心します。映画に例えるならば、アニメ
映画のようで、明るく楽しいマジックショーとしては有りだと思います。
(毛花ばっかり出すマジックを鳩に置き換えれば、ゴム鳩ばっかり出すことに
なるのかな???…それも楽しいかも。)

私は、人工物の全てがリアリティが無いと主張している訳ではありません。
例えば私が好んで演じているお札のプロダクションについての考察です。
お札そのものは人間が作った物で、自然物ではありません。
しかしマジシャンが使う人工物の中では、観客に親しみがある点では最も
説得力のある素材です。
観客の眼前で破れば、そのインパクトはカードの比ではありません。
ステージ上で、次々にお札を出現させるマジックを演じる際に、私はマジック
用のお札ではなく、全て本物を使用しています。しかし、どうすれば本物と
信じてもらえるのか、観客に一枚づつ手渡して確認してもらう訳にもいかず、
その表現方法に悩んでいました。
ある一時期、自らのセコさからマジック用のニセ札を使ってみましたが、なん
となく後ろめたく、客に悟られる前にさっさと片付けようとしている自分に
気付きました。結局は、本物を使えば演技態度に自信が滲み出て来ます。
それと重要なのは、丁寧に扱い、お札を出し過ぎないこと(ただ多く出せば
良いってものではなく、適度な量があるということ)、それを確信できた
のは、ある若手マジシャンの演技を観た時でした。ひたすらお札を出し続け、
それを床にバラまき、手作りっぽい水槽ほどの異常に大きな箱いっぱいに
お札を出現させ、最後に巨大なお札のファン(扇)を出したのです。
これを観て誰が本物のお札を使っていると思うでしょうか?
百歩譲って本物を床にバラまいたとしましょう。しかし最後に巨大なニセ札の
ファンが出た時点で、ウケたとしてもリアリティの観点からは台無しです。
マジシャンサイドの都合で作った「道具」だという事が明らかだからです。
(本物のお札ならともかく、巨大なお札なんて客から見れば無価値!)
さらにリアリティーを追求すれば、演じる場所も重要です。誤解を恐れずに
言えば、決して裕福でもなさげな若手マジシャンが、それほどギャラが出そう
にもないショッピングセンターの観覧無料のイベントで、大量のお札を出して
本物に見えるでしょうか? 本物に見えたとしても、そんなお金持ちなのに、
なんでこんな場所で営業やってるのだろうと思われるのがオチでしょう。

しかし私が思うに、お札以上にリアリティを表現するのが難しいのは宝石の
プロダクションです。ステッキがネックレスに変化したり…シルクから宝石が
溢れ出たり…もし大金を投じて本物の宝石を使ったとしても、誰が信じてくれ
るでしょうか。費用対効果を考えた場合、最も割りに合わない素材でしょう。
私自身も手順を構成して数年演じてみましたが、結局止めてしまいました。
(個人的にはリアリティはどうあれ、宝石が似合う日本人マジシャンは、
敬愛するジョニー広瀬氏唯一人だと思います。)

ついでにもっと述べましょう。マジックカタログを眺め過ぎると感覚が麻痺
してきます。クス玉とは何でしょう?一般人のイメージでは、紐を引くと二つ
に割れて祝いの垂れ幕が出て来る直径数十センチの玉という物ですが、
マジシャンの言うクス玉とは、ただ板バネを貼付けた紙を組み合わせて、
広がると丸く見えるだけの物です。取り出し用シャンデリアとは何でしょう?
小さな電球一個に陳腐なビーズをぶら下げた直径30センチ程度の物体を
自慢気に出して、誰が「あっシャンデリアだ!」と驚いてくれるでしょうか。
全てマジシャンサイドが都合良く作って、これがクス玉だ!、これがシャンデ
リアだ!と言い張ってるだけで、一般人のリアリティとはかけ離れていると
思いませんか?

今回はステージマジックの考察を記載しましたが、もちろんクロースアップ
マジックを始め、全ての分野に当てはまる事です。各々は優れたマジック
でも、続けて演じるとどうなるかという事を考慮した方が良いのでは?
ベタベタのカードマジックやスポンジボールの後に、額に汗しながら真面目
にスプーン曲げを演じても、そこにリアリティはあるのでしょうか?
その場では自分はどんなキャラクターのマジシャンなのでしょうか?
もっと極端な例えをすると、サイキックの分野の第一人者であるマリック氏
やユリ・ゲラー氏が突然鳩を出したとしたら、これまでせっかく築いてきた
リアリティは…

リアリティという観点から見ると、ウケる素材でも…まぜるな危険!
あると思います。

(追記)
私の考察の中には、Mr.マリック氏の名が頻繁に出て来ます。これは30年
以上に及ぶお付き合いの中で、私のマジックに対する哲学に大きな影響を
与えて頂いた事実がある以上、その歴史抜きには語れないからです。
他人の受け売りを、さも自分の考えのように語る者を多く見て来ました。
そんな立派な考えを持っているのに、なぜ今のような程度の立場に甘んじて
いるのだろうと感じるマジシャンがいました。後からその考えが他人の受け
売りだと分かった時はがっかりさせられます。ここでは私なりの考えと他人
からの助言によってそのような考えに至った事をしっかりと区別していき
たいと思います。
悩んでいる私をいつも救ってくれたマリック氏の的確なアドバイスは私だけに
対するもので、他人に当てはまる事ではないと思って来ましたが(また他人に
話すのはもったいないと思っていました。)、人生の折り返しを過ぎた私に、
多くの若手マジシャン達がメールや電話で、時には自宅を訪れて様々な相談
をしてくれる現在、全てのマジシャンに当てはまる事なのだと感じています。
今後このコーナーを通して、他のマジシャンの方々の参考になればと、過去の
マリック氏のアドバイスを少しづつ思い出しながら記載していくつもりです。

   
    
    

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