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適度な空間

先日の熊本でのミニライブを終え、自分に最も適した空間とは何だろうと
考えさせられました。(ここでの意味は空間の「規模」のことで、飲食店とか
ホテルとかの「環境」のことではありません。)
今までは、依頼された様々なスケールの仕事をこなすのに必死で、自分に
合った空間など考えてもみませんでした。服や靴は自分のサイズを把握
しているので、悩むのはデザインや色だけでしょう。
もちろん、広いホールでイリュージョンを演じたり、鳥を飛ばしたりするのも
魅力を感じるし、眼前でクロースアップマジックを演じるのも大好きです。
しかし、それは依頼された仕事の空間に自分を合わせているということです。
(与えられた服に体型を合わせるようなもの)
自らリサイタルを催しているマジシャンの場合は、自分の魅力を最大限に
引き出せる空間を理解した上で、その会場を借りて演じているのでしょう。
私の場合は、いまだかつて一度も自分の意思でイベントやリサイタルを催
したことがないので、無条件で本当に自分が演じたいマジックは何だろう、
そしてそれにふさわしいのはどんな空間なのだろうと考えてしまいました。

90年代のラスベガスでは、メジャーマジシャン達が相次いで出演ホテルを
移籍しました。シークフリード&ロイはフロンティアホテルからミラージュ
へ、ランス・バートンはハシエンダホテルからモンテカルロホテルへ…。
それぞれ数百人規模から数千人規模の劇場へと移籍したのですが、人気
のショーであるがゆえ、ビジネスライクに考えれば当然のことでしょう。
しかし、私を含めて新旧のショーを観た人の感想のほとんどが、小さな劇場
の時の方が良かったというものでした。小劇場で巨大な像が消えたあのイン
パクトが、豪華で広い劇場ではそれほど伝わらないのです。この感覚を表現
するのは難しいのですが、せっかくの良い香りの芳香剤を広い部屋に移した
ために、部屋の隅々まではその効果が届かないようなもどかしさというか…。
その後何度か観る都度に改良が重ねられ、徐々にその香りが届くようになっ
て行くように感じましたが、やはり小劇場で観た時のようなインパクトには及
びません。

つまりマジシャン各々が芳香剤のように香りが届く距離(不思議が届く距離)
を持っているのではないかと思うのです。あくまで私の場合ですが、仕事を
依頼された場所が広いホールの時にイリュージョンを演じたり、鳥を出したり
するのは、芳香剤の香りを懸命に扇風機で後方席まで送っているような気が
するのです。Mr.マリック氏の場合はスクリーンを用いたり、観客全員を巻き
込んでのスプーン曲げを演じたり等、マジシャンによって独自の不思議の届け
方や距離があるのではないでしょうか。これを理解していれば、自分のベスト
を表現できるだけでなく、自分の器には収まりきれない仕事を無理に引き受け
た結果、周囲の関係者に迷惑をかけるような失敗も避けられると思います。

今回のミニライブは、スケールでいうと、いわゆる「サロンマジック」の範疇
で演じたわけですが、BGMに乗って派手な出し物をするでもなく、クロース
アップマジックのように身体の前にテーブルを置くでもなく、マイクを使わな
くても声が通る程度の人数の前で、好き勝手に言いたいことを言って演じた
ことで、自分の「不思議を届けられる最適な距離」がなんとなく掴めた2日間
でした。

「適度な空間」を提供して頂いた、「パラノイア」のオーナー・金芳幸博氏に
感謝します。

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