トータルバランス
「クロースアップマジックから大掛かりなイリュージョンまで幅広いレパート
リーを誇り…」マジシャンのプロフィールで最も多く見られるフレーズです。
これはジェネラリストとして、あらゆるスケールの仕事を請け負うためには
大変便利な表現方法ですが、全てのレパートリーにおいてクオリティーが
ハイレベルなのかは疑問です。ちょこっと練習したクロースアップに、数羽
の鳩を飼い、手作りのイリュージョンが一台でもあれば冒頭のアピールが
できてしまいます。マジックがショービジネスとして確立していた欧米では、
トッププロの多くはスペシャリストでした。早い時期から自分を客観的に捉
えて、クロースアップ専門のマジシャンや、イリュージョニストへと変貌して
いったのでしょう。
しかし日本では、あらゆるタイプのマジックに手を広げた方が仕事を得やすい
のが現実です。つまりファミリーレストランのメニューのようなものですが、
あえてラーメンや牛丼を載せても、それらの有名専門店の味には勝てない感
が否めません。某マジシャンとの会話の中で、日本のマジシャンは自分にでき
ない(あるいは知らない)マジックを観た時に焦り過ぎだよねという話題にな
りました。新しい技法を見ると焦り…知らない道具を見ればまた焦って欲しく
なり…自分の体型を自覚しないまま、次々に服を買いまくるかのように。
自分の得意分野を確立したトッププロには、そのような焦りはないのでは。
シークフリード&ロイがその地位を築いた後に超困難なカードの技法を練習
していたとは思えないし、タマリッツがいつかホワイトタイガーを出してやろ
うと今さら企んでいるとも考えられません。(企んでいるかも知れませんが)
近年のクロースアップマジックブームで、飲食店を中心に多くのマジシャン達
が現れましたが、ブームが下火になった今、淘汰されないようにという理由
なのかステージやイリュージョンの分野にも手を広げ始めています。全ての
分野においてハイレベルで拡大・維持できれば、まさに豊富な品揃えを誇る
高級デパートのようになれますが、気が付くとコンビニだった…という可能性
の方が大。かようにジェネラリストとしてのトータルバランスを確立するの
は、時間も費用もかかるものですが、最善の方法はまず専門店のような、
どこに出しても恥ずかしくないアクトを完成させてから、他に手を付けていく
やり方かも知れません。国内外を問わずスペシャリストでもそのアクトを演じ
るのはコンベンション等の特別な場合が多く、実際の営業の現場での演目は
似たり寄ったりなのが現実なのです。
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